残置物は片付けなくてよいのですか?

文責:所長 弁護士 石井浩一

最終更新日:2021年03月25日

残置物は片付けなくてよいのですか?

1 被相続人が亡くなった後

 被相続人の残置物のことは、相続放棄を検討している相続人の悩みの種となります。

 後述する通り、原則としては処分できないのですが、現実的にはそうも言っていられないような状況に陥ることもあります。

 通常であれば、被相続人が亡くなると、被相続人が生前使用していた物が残ります。

 ときには、被相続人の生活がすさんでいたり、精神疾患に陥っていたりしたことにより、住居がゴミ屋敷化していて、途方もない量の残置物が存在するということもあります。

 

2 相続財産と法定単純承認事由

 相続放棄に関する法律面の確認をしてみます。

 原則として、亡くなった人の所有に属していたものは、すべて相続財産となります。

 そして、相続放棄をする際には、行ってはいけないことがあります。

 そのひとつとして、法定単純承認事由に該当する行為が挙げられます。

 特に気を付けなければならないのは、相続財産の処分行為です。

 相続財産の処分とは、典型的には、売却や廃棄をすることです。

 家財道具や、衣類等、生活する中で使用していた物も、被相続人が所有していたのであれば、相続財産になりますので、原則としては廃棄することができないということになります。

 

3 具体的な対応

 しかし、本当にまったく価値のないようなものまで、処分してはいけないのでしょうか。

 被相続人の残置物について、裁判例においては、財産的価値のないものであれば、形見分け程度の処分であれば単純承認にはならないとされています。

 具体的は、写真や手帳、高価でない時計、文房具等を数個程度持って行くという程度であれば、法定単純承認事由に該当する行為とされないと考えることができそうです。

 問題は、残置物の全てまたは大半を処分した場合です。

 被相続人が着古した衣類や、何年も使った家財道具など、財産的価値はなく、むしろ処分に お金がかかるようなものはたくさんあります。

被相続人が賃貸物件に住んでいた場合は、大家さんから残置物を処分して明渡すことを求められることもあります(ときには、激しく追及してくることもあります)。

 実務上、財産的価値のない物を処分しても単純承認事由にあたらないと考える傾向にあります。

 しかし、裁判所による判断が確立していない以上、もし処分するのであれば、後でトラブルになるリスクを最低限に抑える必要があります。

 どうしても残置物を処分しなければならない場合、処分したものに財産的価値がなかったことを証明できるようにしておく必要があります。

 万一訴訟等になってしまうことも見据えて、具体的な手段について、専門家に相談することをお勧めします。

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